軒天とは?役割や素材・修理費用をやさしく解説
家のメンテナンスといえば外壁塗装や屋根塗装などがありますが、そのどちらでもつい省かれがちな部分が軒天(のきてん)です。
今回の記事では軒天が何か、軒天の役割や種類、修理方法などを解説します。
軒天とは? | 家の外側に飛び出した屋根の裏面部分
軒天とは家の外側に飛び出ている屋根の裏部分です。
わかりやすいものとしてはベランダの頭上にある屋根部分の裏で、屋根が少しでも飛び出していれば軒天は存在するため、大抵の住宅に軒天は存在します。
一番上の屋根にある部分の軒裏は屋根塗装の一環でメンテナンスされることがありますが、それ以外の軒天は屋根塗装でも外壁塗装でも手をつけられないため、意識してメンテナンスする必要があります。
軒裏、軒、軒下、軒先と何が違う?
名称 | 意味 |
---|---|
軒裏 | 軒天と場所は同じ。上から見下ろした場合を軒裏、下から見上げた場合を軒天と呼ぶ。 |
軒 | 軒天を含め、屋根全体を指す。 |
軒下 | 軒の下にあるスペース。 |
軒先 | 軒の先端、あるいは家の近くを指す言葉。主に後者で使われる。 |
軒○とつく言葉はいくつかあり、軒天以外にも軒裏、軒、軒下、軒先とあります。
それぞれ違いを解説すると、まず軒裏は軒天と同じ場所を指します。
この言葉の違いは「視点の違い」であり、軒天は「下から見上げた場合」の言い方で、軒裏は「上から見下ろした場合」の言い方であるため、基本的に軒裏は軒天のことを指している認識で問題ないでしょう。
軒は軒裏を含めた飛び出した屋根の部分全体を指します。
軒下は軒がある部分の下のスペースを指します。
上記で解説した例で言うと、ベランダ部分が軒下です。
軒先には2つ意味があり、1つは軒の先端部分という部位を表す場合。
もう1つは軒に近い場所を指す場合の二通りです。
主に「家の外(近く)に居る」という意味で使われます。
軒天の役割は3つ
軒天の役割は主に3つ存在します。それぞれ役割は以下の通りになります。
- 家の美観を保つ
- 屋根裏の換気
- 防火
それぞれ解説していきましょう。
家の美観を保つ
軒天は、家の全体的な美観を整えるために重要な役割を持ちます。
というのも、家は下から見上げることが多いため、軒天の有無や軒天の見た目が、そのまま家の印象を決めるからです。
軒天がないと、屋根の内部にある垂木や野地板などの下地材が丸見えになってしまいます。
言わば骨組みを晒した状態であるため、見栄えが悪くなるのです。
また、軒そのものがない家はいわゆる豆腐建築のような、のっぺりとした印象を受けることもあります。
軒天は、家の美観を保つ上で重要なパーツなのです。
屋根裏の換気
軒天材の一部には穴が空いた素材が使われています。
この穴が空いた素材は有孔ボードと言い、屋根裏への吸気・排気を行えます。
換気効果のある素材は有孔ボードだけではなく、スリット状になっている軒天換気部材もあるため、どちらかは覗いてみるとわかるでしょう。
なお屋根裏への吸気・排気の関係上、屋根裏がない部分にある軒天には存在しません。
防火
軒天は火事が起きた際、下から燃え移る火の手を防ぐ役割を持ちます。
もし、軒天がない状態で火事が起きると、窓から上がった火の手が屋根裏まで一気に届いてしまうため、あっという間に家全体に火の手が燃え広がってしまいます。
その結果すぐに屋根が燃え尽きてしまうため、崩壊の可能性が高まり、消化が間に合わずに崩壊した結果飛散したガラスや木材によって周囲に延焼が広がっていくなどといった可能性に繋がります。
もちろん軒天だけで火の手を完全には防げませんが、燃え広がる速度を抑えるという意味で軒天は非常に重要な防火対策であるでしょう。
軒天の素材別タイプ
屋根や壁材に沢山の種類があるように、軒天にもさまざまな種類が存在します。
素材によって価格や性能、メリットやデメリットがあります。
今回解説する素材は下記の4種類です。
- 木材
- 不燃材
- 金属
- フレキシブルボード
それぞれ解説していきましょう。
木材(ベニヤ、化粧合板)
木造建築であれば当然木材が使われた軒が作られます。
ベニヤ板や化粧合板が用いられており、そのまま木の温もりが感じられるデザインになりますが、防火性が低かったり雨などによって腐食する可能性が他の素材よりも高いのが欠点です。
和風の家屋は基本的に木材の軒天です。
中には軒天がなく骨組みや下地材が見えている場合もあるため、気になる方は調べてみると良いかもしれません。
不燃材(ケイカル板)
不燃材、通称ケイカル板は一般的な家屋でもっとも使われる素材です。
ケイカル剤はケイ素カルシウム板と言い、セメントやセラミックスを基本材料としてメーカーごとに独自の素材を混ぜ込んだり独自の加工方法で製造されます。
不燃材の名の通り耐火性や耐水性が高く、軒天以外の場所にも使用されています。
現在使用されているケイカル板はノンアスベストの安全なものが使用されていますが、昔に使われていたケイカル板はアスベスト(石綿とも)が使用されており、非常に有害です。
もしも古い建物に住む場合はアスベストを含んだケイカル板が使われているかどうか確認した方が良いでしょう。
また、ケイカル板の軒天には穴が開いていたりスリットがついている事がありますが、これは上記でも解説した有孔ボードや軒天換気部材の事で、有孔ボードは一部分だけに穴が開いているものから全体に穴が開いているものなど、いくつかの種類があります。
金属(ガルバリウム)
金属系の建材としてガルバリウム鋼板を使用したものがあります。
金属系建材の特徴として軽さが挙げられます。
金属という鉄などのイメージから重い印象を受ける方も居るかも知れませんが、金属の建材は他のセメント・セラミック系建材と比較すると薄くても強度を保てるのです。
薄くして強度と軽量化を両立できるため、軽い建材として扱われています。
不燃材として耐火性の高いケイカル板よりも更に耐火性が高く、軽いため地震などの揺れにも強い特徴がありますが、その分ケイカル板よりも高額になります。
フレキシブルボード
フレキシブルボードは繊維強化セメント板のことで、その名の通りセメントに繊維質の素材を混ぜて作られている建材です。
耐水性と防カビ抵抗性に優れており、湿気の多い地域などに適しています。
欠点として耐火性は金属に劣り、また重量がケイカル板の倍近くあるため軒天材として使用する場合軒そのものの耐久性によっては使用できない可能性があります。
軒天の劣化症状とは?
続いて軒天に見られる劣化症状について解説していきます。
軒天の劣化症状は屋根や外壁に現れる劣化症状と同じで、使用している建材そのものの劣化と、塗装に使われている塗料の劣化の2種類が存在します。
今回解説する劣化症状は以下の通りになります。
- 色あせ
- チョーキング
- 塗装のはがれ
- カビやコケ
- 雨染み
- 破損
それぞれ解説していきます。
劣化症状①色褪せ
外壁材や屋根と同じように塗装を行っていたり、色がついている建材を使用している場合、日に焼けたり雨によって色あせが発生します。
色合いが薄くなっていたり、ムラが大きくなっていると色あせが発生していると言えます。
塗装の場合塗料としての機能が低下しているため、再塗装が必要です。
紫外線によって色あせることが多いため、すぐに色あせしてしまう場合は紫外線に強い塗料を使ってみるのが良いでしょう。
劣化症状②チョーキング
チョーキングとは、塗装に使われている塗料が紫外線などによって成分が分解され、分解された樹脂が表面に浮き上がっている状態を指します。
チョーキングが起きた部分を手で触れると白い粉のようなものが付着しますが、それが分解されて分離した樹脂です。
単純に経年劣化として発生する症状ですが、施工不良によっても発生する可能性があります。
塗装を行う前には、塗料を攪拌して、成分を均一にする工程があります。
塗料が攪拌不足だと、成分が沈殿したり分離したりしたままの塗料を塗ることになります。
そのため、紫外線を受けるとすぐに、分離した成分が表面に出てきてしまいます。
塗装から一年以内にチョーキングが発生した場合は、かき混ぜ不足である可能性があります。
当然塗料としての性能が低下している状態であるため、塗り直しが必要です。
劣化症状③塗装のはがれ
乾いた塗料が剥離してしまう症状も劣化症状の1つです。
剥がれは主に乾燥によって発生しますが、乾燥は当然起こり得るもので、乾燥すること自体に問題はありません。
しかし、剥がれが起きるということは塗料が定着しなくなっているため、塗料としての性能が低下しています。
そして当然、剥がれた部分は塗料による防護がないため、無防備な建材を晒してしまっています。
施工不良や物理的なダメージでも剥がれが起きやすくなるため、注意しましょう。
劣化症状④カビ、コケが発生している
軒天は陽の光が当たらない部分です。
そのため、カビが生えやすい場所の条件である「日当たりの悪い場所」をクリアしています。
また、軒天の構造にもよりますが熱を溜め込んだりしやすい構造・場所の場合湿気が高まり、カビやコケが発生しやすくなります。
カビは人体に健康被害を及ぼす可能性があり、コケは保水性が高いため外壁の劣化を悪化させやすく、どちらも有害です。
劣化症状⑤雨が染みている
軒天とはつまり軒、飛び出た屋根の裏である以上屋根から浸水する雨漏りが発生する可能性があります。
そうして、内部に浸透した雨水などによって染みが発生することがあり、それによってコケやカビが増殖したり、材質によっては錆びや腐食の原因になります。
この場合軒天だけのメンテナンスでは済まず、軒自体をメンテナンスする必要があるでしょう。
劣化症状⑥一部破損している
軒は家から飛び出た部分であるため、風向きなどによっては負担を受けやすい部位であり、また梯子などの背が高いものを運んでいると、不注意でぶつけることも多い部位です。
そのため、劣化症状として一部部位が破損していることがあります。
破損した部位から雨水が侵食したり、蜂が居る地域ではそこから内部に巣を作ることもあるため、早急に修理が必要です。
軒天のメンテナンス方法は2つ
軒天のメンテナンスは主に2つあります。
それは「塗装」と「修理」です。
小さいヒビ程度や、塗装部分の劣化であれば塗装だけで十分ですが、軒天や軒そのものが破損している場合は修理が必要です。
それぞれ解説していきます。
塗装する場合
塗装する場合下地処理、下塗り、上塗りが基本的な工程になります。
場合によっては下塗りと上塗りの間に中塗りが発生したり、金属を使用している場合は錆止めを行います。
施工の質が悪い場合塗料がすぐに剥がれたり、チョーキングが発生するため業者選びは注意しましょう。
また、外壁塗装あるいは屋根塗装を行う際には軒天を範囲に含めるように事前に依頼しておくことも重要です。
業者によっては「外壁塗装では塗らない」「屋根塗装では塗らない」と相反する考えを持っているため、事前の確認は念を込める意味でも必要でしょう。
下地処理
下地処理は塗料を定着させる上で重要な工程です。
ここが疎かだと再塗装を行ってもすぐに剥がれてしまったり、合間に隙間が生じて膨れや亀裂の原因になります。
また、下地処理をしっかりと行っていても、使っている塗料が前の塗料や建材と相性が悪い場合、剥がれやすくなったり壁材を劣化させる可能性があるため注意しましょう。
錆止め
金属系の建材を使用している場合は錆止めが必要です。
錆びにくい素材であっても決して錆びないわけではないため、錆止めは欠かせません。
ただこちらも塗料と同様に経年劣化に伴って性能が低下していくため、定期的にメンテナンスが必要です。
下塗り、中塗り、上塗り
塗装は一度塗れば十分なわけではなく、塗りムラをなくすために上塗りと中塗り、上塗りと複数回かけて塗っていきます。
こうすることで全体的に均一な塗装が可能となり、しっかりと定着させられます。
悪徳業者はこの作業を下塗りだけで済ませることがあるため、注意しましょう。
外壁塗装アドバイザー
金井のコメント
修理する場合
軒や軒天自体が破損している場合は修理しなければなりません。
修理する場合、基本的には上から建材を被せるか、まるごと張り替えるかのどちらかになります。
どちらも一長一短があるため、解説していきましょう。
不燃材を被せる
まず上から不燃材、ケイカル板を被せる場合です。
カバー工法とも言い、上から被せるためそこまで大規模な工事にはなりませんが、欠点として「重量増加」が挙げられます。
建造物は基本的に重ければ重いほど地震に弱くなります。
日本の建造物は、地震に対して建物も揺れることで振動に耐えていますが、重いとそれだけ揺れられなくなり、振動に対する負荷が大きくなります。
また、内部を修理するわけではないため、もしも内部にカビや腐食が及んでいた場合、被せた内部で菌が繁殖する可能性があるのも欠点でしょう。
張り替え
張り替えは文字通り既存の軒天、あるいは軒そのものを剥がして新しいものに取り替える行為です。
実質作り直しであるため耐久性などは新築同然に回復しますが、大規模な工事になるため塗装やカバー工法と比較すると料金が高額になります。
また、一部の軒天は屋根と繋がっているため、軒だけ交換する事が不可能な場合があります。
その場合屋根そのものの張り替え作業として一気に費用が跳ね上がります。
耐用年数を迎えている建築物の場合、塗装では耐久性が回復しないため、張替えが必要になります。
軒天のメンテナンス費用相場は?
軒天のメンテナンス費用ですが、主に面積で変わります。
まず塗装の場合、大体の相場として30㎡あたり12万円前後で使用する塗料の種類で変化し、足場代は15万円程度かかるため、合計30万円程度が相場です。
対して、修理・張り替えの場合は17万円+足場代でこちらも30万円前後、張替えの場合は23万円+足場代で40万円前後と、塗装やカバー工法と比較すると10万円近く高くなります。
費用そのものは高くないものの、足場代がかかるため屋根や外壁の塗装と合わせて依頼した方がお得でしょう。
外壁塗装アドバイザー
金井のコメント
塗装店の見積書にどのように書かれているかは要チェックです。
「軒天 ○㎡ ○○(塗料名)」などと詳細に書かれていれば問題はないのですが、中には「屋根塗装一式」や「付帯部塗装一式」といったようにアバウトに書かれていることも。
口頭で「一式に含まれてますよ」だけだと後々言った・言わない問題になるので、しっかり見積書に落とし込まれているかが重要だと言えます。
軒天はDIYで修理できる?
最後はDIY、つまり自力で軒天は修理できるのかを解説をしましょう。
まず軒天は屋根裏の部分であり、背の低いガレージ部分の軒天ならともかく、大抵の軒天は高所にあるため高所作業が前提です。
素人が高所作業を行おうとしても、用意できる足場は脚立、できたとしても単管パイプを組み合わせた足場程度でしょう。
そのような不安定な足場で作業をすれば落下事故を起こす可能性が高く、オススメできません。
ただの骨折程度ならまだしも、頭部を強打して治療費が膨れ上がった結果、業者に依頼するよりも高い出費になる可能性もあります。
仮に怪我をしなかったとしても、高所作業という集中力が散漫になりがちな作業で素人が満足のいく完璧な修理ができる可能性は低いでしょう。
怪我をしたくない、あるいは不完全な修理をしたくない場合は大人しく業者に任せた方が安全かつ確実に修理が可能です。
幸い屋根や外壁塗装でまとめて依頼できるため、同じく定期的なメンテナンスが必要な屋根・外壁塗装の際にお願いするのが手っ取り早いでしょう。
まとめ
軒天についてさまざまな情報をまとめて解説しました。
あまり意識しないけれど、重要な部分である軒天。
建築物の防火性といった性能面、全体のイメージを整えるという美観における必要性と、決して疎かにしていい部位ではありません。
とくに手抜き工事を行う悪徳業者が手を付けない箇所として悪い意味でメジャーなため、塗装の際に業者が悪徳業者か優良業者か確認する方法として軒天をチェックする方法が有効です。
ただ、単純に対象外な可能性もあるため事前に軒天も施工対象に含めるよう相談しておく必要があります。
外壁や屋根で使用する塗料より、少しグレードを下げた塗料を使うこともあります。
理由は主に二つあります。
①価格を少しでも下げたいと希望している
②グレードを下げても、耐久性は十分だと塗装店が判断している
軒天は外壁や屋根と比べると傷みが進みにくい部分です。
グレードを下げること自体にに問題はないのですが、心配な方はその塗料を提案した理由を聞いておくと、より納得度が上がると思います。